第21話 テファの献身

ミラの元に警察がやって来た。
テファに贋作の絵を描かせてギャラリーに売り裁いた容疑で同行を求められる。
しかしミラはユリが逮捕された事がショックで既に精神を病んでいた。
夫のハンは先に病院へ行かせて欲しいと刑事に頼んだ。

一方、テファは新聞トップ一面に報道された『テ・ミラ親子/あくどい手口の数々』の掲載記事を読んで泣いていた。

ソンジュとチョンソは結婚してから最初の朝を迎えた。
ソンジュはチョンソの寝顔を愛おしむ様に見つめる。

「おはよう」

「おはよう。
いつから起きてたの?」

チョンソはソンジュの顔を撫でて答えた。

「つい、さっき。
起きたら横でオマエが寝ているから驚いたよ。
夢かと思って」

チョンソが照れ笑いをして起き上がろうとする。

「もうチョットだけ、ゆっくりして行こう!」

ソンジュは起き上がったチョンソを押し倒して2人で布団を被る。

「お兄ちゃん!!
仕事行かないの?」

「別にいいよ!
少しくらい遅れたって。
仕事なんか放っとけ!」

「仕事に行かなきゃ私が色々と言われちゃうでしょ!」

「あ−っ!イヤだ!!
仕事行きたくない!!」

少しでもチョンソと一緒に居たいソンジュは子供の様に駄々をこねる。

「いや駄目よ!!
コラッ!行きなさい!」

チョンソは枕をソンジュにぶつけて応戦する。

「な、何だよ!?
もう亭主いじめかよ!?」

チョンソは出勤前にソンジュにネクタイを巻いてあげる。

「上手だね」

「小さい頃にパパに良くやってたから。
これ位もう目を閉じてても出来るわ」

「こうしてると結婚したって実感が湧くな」

「早く帰って来てね!」

「うん!
今日はヘルパーさんが来てくれる」

「ヘルパー?」

「僕より上手にオマエを世話してくれる人」

チャイムが鳴り玄関に出向くソンジュ。

「お邪魔しちゃったかな?」

「テファお兄ちゃん!?」

チョンソが嬉しそうに駆け寄る。

「あぁ、俺だ。
幸せそうだな?」

テファはチョンソの手を握って伝える。

「えぇ、凄く幸せ!!
もう、この世で1番幸せ!
お兄ちゃんも幸せ!?」

「あぁ、幸せだよ」

「僕が1番幸せだけど!!」

ソンジュは2人の両肩に手を回して3人で微笑み合った。

ソンジュが出勤した後にチョンソとテファは2人の時間を過ごす。

「素敵な家だ。
オマエも幸せそうだし。
やっぱり結婚させて良かったよ」

「えぇ、結婚して良かったわ。
お兄ちゃんも結婚したら?
テファお兄ちゃんは不器用だから絵を描く以外何もろくに出来ないじゃない?
お兄ちゃんが良い人に出会って結婚しないと私も安心出来ないわ。
そうだ!国展の準備もしなきゃ!
お兄ちゃんが国展で入賞するのが私の夢なんだから!」

「そんなの簡単だよ。
描きさえすれば入賞さ!」

話を聞きながらチョンソは誤ってティーカップを落として割ってしまう。

「ゴメン…お兄ちゃん。
気を付けてたんだけど手を滑らしちゃった…。
テファお兄ちゃんにも…
ソンジュお兄ちゃんにも…
本当に申し訳ない…。
私は何もしてあげられないのに…
して貰ってばかり。
心配させてばかりで…」

「馬鹿な事を言うんじゃない」

「私すごく思うの。
ボンヤリでも目が見えてた時に結婚しておけば良かった…。
そしたら私の手で御飯の仕度もしてあげられたのに…って。
今はしてあげられる事が何もない…」

テファはチョンソの肩を叩いて慰める。

「オマエが側に居るだけで充分だよ」

「そうね…
私もそう思ってた。
ソンジュお兄ちゃんさえ側に居てくれれば充分だって。
だけど…人間って欲張りよね。
もっともっと…って願ってしまう。
側に居るからこそ余計に顔が見たい…。
ソンジュお兄ちゃんの顔が記憶から薄れて消えてしまうんじゃないか…と怖くなるの。
忘れてしまうのかしら…?
一目で良いから。
もうT度顔が見たいの」

「きっと見られるさ」

テファはチョンソの涙を優しく指で拭いながら元気付けた。

ソンジュはチャン理事らとセ−フモ−ル内を視察する。

「初めて体の不自由な方の大変さを知りました。
この階段もそういう方には不便に違いない。
壁側にも手摺りを付けて下さい」

点字の付いていないエレベーターのボタンを見て点字を付ける様に指示したソンジュはフッと呟いた。

「チャン理事。
愛する人の為なら目のTつ位あげても良いですよね?」

「社長…」

「目だけじゃない。
命だってあげたい位だ…」

ソンジュとチョンソの新居では会社仲間のチェヒ達が集まり2人の新婚祝いのパーティーが開かれた。
しかし突然チョンソが意識を失い倒れてしまう。

病院に運ばれて検査の結果をソンジュは医師に尋ねた。

「転移は確認されなかったが今後…全くない訳ではい。
もし転移があれば打つ手は無いです」

ソンジュは医師からの宣告に動揺してしまう。

その後ソンジュはテファのアトリエを訪ねた。

「国展の絵ですか?」

「チョンソと約束したんです。
必ず描くって」

「チョンソが喜びますよ」

テファは不意に訪れて来てぎこちないソンジュを察する。

「何か話が有っていらしたんでしょ?
まさか…」

「昨日チョンソが倒れたんです」

テファは動揺しながらソンジュを見つめる。

「転移は見つかっていませんが…
やはり気になります。
医師も心配していましたし…
テファさんにも言っておこうと…」

テファは不安気なソンジュにキッパリ言う。

「きっと大丈夫ですよ」

「そうですよね」

「もちろんです」

「元気が出て来ました。
実は誰にも相談出来なくて…
ありがとう」

ソンジュは再び医師の元を訪ねた。

「転移してたら助かる望みは全く無いんですか?」

「はい…」

「手術するとか…
抗がん剤を投与するとか」

「効果が無いんです」

ソンジュは別の病院の医師に頼んだ。

「御自身の角膜を提供したいと言う事ですか?」

「そうです。
一方の目が無くても生活に支障はありません。
その角膜を妻にあげたいんです。
夫婦なら、それ位は出来ますよね?」

「それは出来ません」

「私がいいって言ってるのに…
何でダメなんです?
本人がいいって言ってるんです!!
私が見ている物を妻にも見せてやりたい。
私が感じる物を妻にも感じさせたやりたいんです!!
一緒に見て感じながら、人生を歩きたい。
私一人が両目で見るより片方ずつでも2人で見る世界の方が美しくいはずです!!」

「お気持ちは分かりますが…
生きている方から角膜を取る訳にはいきません」

「先生どうかお願いします!
お願いします!!」

「申し訳ありません…」

ソンジュは必死で頼み込んだが医師から断わられて落胆しながら去った。

そしてソンジュと入れ違いにテファも同じ医師の元を訪れた。

「チャ・ソンジュさんも角膜提供の事で?」

「はい。
でも同じ事を説明しました。
生きている方の提供は不可能です」

テファはチョンソが言った言葉を思い出す。
《一目顔を見たい…》
テファは医師に尋ねた。

「じゃぁ死んだ人間ならいいんですね?」

テファはドナ−登録をしてカ−ドを首から掛けると呟いた。

「チョンソ…
空が澄み渡って綺麗だ。
この空みたいに澄んだ目で愛する人の顔を見たいだろ…。
生きて居る間にオマエが見たいと願う美しい物を好きなだけ見て欲しい。
俺は青い空になってオマエを見守るよ」

テファはチョンソ宛てにフランスからの偽造手紙を書いた後に父ピルスと会った。
ピルスの欲しがるス−ツを買って一緒にお風呂に入り2人はつかの間の親子の時間を過ごした。

その後でミラの病院を訪れる。
ガラス越しの鍵の掛けられたミラの病室を覗くとテファの方へミラが歩み寄って来た。
しかしミラは自分の息子だと認識出来ない。

「おじさん!ここから出してよ!」

ミラは鍵を開けて病室から出して欲しい事だけを必死に頼む。
テファは変わり果てた母を見て泣きながら病院を去った。
そしてソンジュの会社を訪れた。

「連絡がなかったからチョンソが心配してましたよ」

「ずっと留学の準備で忙しくて」

「留学…?」

「フランスに留学します。
手続きも済みました」

「こんなに急に?
きっとチョンソが淋しがります」

「僕が絵を描く事がチョンソの望みです。
国展の絵も完成させて出展しました。
《天国の階段》貴方とチョンソの絵です。
2人を見ていると天国に居る様な気がするから」

「チョンソはまだ知りませんよね?」

「約束してくれますか?
ずっとチョンソの側にいるって。
チョンソを幸せにしてくれますよね?」

「僕が幸せならチョンソも幸せだって信じてます」

「チョンソをお願いします」

テファの差し出した手をソンジュは強く握って握手を交わした。

最後にテファは自分の描いた壁画の前でフランス留学をチョンソに伝えた。

「本当に嬉しいわ!
おめでとう!!
いつ戻って来るの?」

「分からない。
帰りたくなったら戻るし。
ずっと向こうで暮らすかな…」

「時々は戻って来るんでしょ?」

「あぁ…」

「絶対に手紙書いてね!!」

テファはチョンソの頬に手を充てる。

「チョンソ幸せになれよ」

「お兄ちゃんもね!!」

「俺も幸せになる」

「これが最後かと思うと変になる…」

チョンソもテファの両頬に手を充てた。

「何で最後なのよ?
また会えるじゃない」

「最後じゃないよな…」

「そうよ!!」

テファは涙が溢れて言葉が出ない。

「お兄ちゃん…泣いてるの…?」

「チョンソ写真を撮りに行こう。
顔が見たくなったら、いつでも見れる様に」

テファはプリクラの操作をして撮る瞬間にチョンソのおでこにキスをした。

「ソンジュさんには内緒だぞ。
殺されちまう」

テファは2人で撮った写真をポケットに了い込んだ。

翌日、全ての準備を終えたテファは誕生日の時にチョンソから貰ったマフラーを巻いて車の中にいた。

「チョンソ…。
俺はお前が居てくれたから幸せだった…。
お前が居てくれたから笑顔になれた。
俺はお前の為ならば地獄にだって行ける。
お前がくれた初めてのプレゼントだ…。
お兄ちゃんもお前にプレゼントをやるよ…
ハン・ジョンソン…。
お兄ちゃんが付いてるぞ!!」

テファはアクセルを踏み込むとハンドルから両手を離して角膜を守る為に目を両手で覆い隠した…。

深夜、眠っているソンジュの元へ角膜の提供者が現れたと緊急電話が入った。
ソンジュは角膜提供者が現れた事で直ぐにチョンソを病院に連れて行き角膜移植の手術を受けさせる。

そして手術中に待合室で待つソンジュの元へ贋作の件を調べていた刑事が訪ねて来た。
ソンジュは刑事からテファが自殺事故で亡くなった事を知らされる。
そしてテファからソンジュに宛てた血まみれた遺書を渡されてソンジュは遺書を読んだ。


「ソンジュさんが、この手紙を受け取る頃は…
多分、俺は苦痛も無く別れも無い天国に向かっているでしょう。
悪魔の息子に生まれ…
地獄の様な世界で生きて来ましたがチョンソに出会い天国への道へ足を踏み入れる事が出来て俺は今幸せです。
知っていますか?
俺はチョンソに会って笑える様になりました。
誕生日にワカメス−プを作ってくれたのもチョンソが初めてでした。
どんなに美味しかったか。
マフラーもチョンソがくれた。
人から何か貰ったのも初めてでした。
チョンソは俺を愛してくれた…
たったT人の人です。
だから貴方の愛するチョンソを俺も愛してしまいました。
これからはチョンソが俺の目を通して。
俺はチョンソの心を通して世界を見る事が出来ます。
チョンソの一部になって。
チョンソと一緒に居られると思うと、とても幸せです。
今度は貴方とチョンソが幸せになる番です。
チョンソには俺が遠くに逝った事は黙っていて下さい。
お願いします。
貴方の友人ハン・テファ」

霊安室に入ると両目にガ−ゼを巻いて眠るテファを見てソンジュは愕然とする。

「どうしてだよ…。
何でこうなるんだ!!
どうして…なぜだ!!」

ソンジュは泣き叫んだ。

チョンソの手術は無事に終わった。

「チョンソ、大丈夫か?
見えるよ。
きっと見える様になる…」

ソンジュはチャン理事に連絡してテファの葬儀の手配をして貰う。
そしてテファの通夜に出向いて父ピルスが号泣する前に座り挨拶をした。

「お悔やみ申し上げます。
お父さん、テファさんは男の僕から見ても魅力溢れる人でした。
いい方でしたから、今はきっと天国です」

ソンジュは病院に戻りチョンソに言う。

「チョンソ一緒に来てくれ。
お前の目を見える様にして下さった人に御礼を言いに…
行けそうか?」

「えぇ。
どなたか知らないけど。
私も最後に有難うございましたって御礼を伝えたいもの」

チョンソはソンジュに付き添われてテファの遺影の前に座った。

「どなたか存じますんが、これからはアナタに感謝しながら生きて行きます。
ご存知ですか?
アナタが私の最後の願いを叶えてくれた事。
アナタの目の御蔭で愛する人をもうT度見る事が出来ます。
お兄ちゃん、もっと近くでお話したいわ」

チョンソはテファの遺影に手を触れた…。



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