第1話 孤独の始まり

ソンジュとチョンソの二人は幼な馴染。
小さな頃から一卵性双生児のように似たような感情を抱きながら、常にお互いが傍にいて喜びも悲しみも共に一緒に分け合い過ごして来た。

二人は『海辺の家』の砂浜でふざけ会って遊んだり、ソンジュが手品やブ−メランの投げ方をチョンソに教えてあげたり。
一緒にピアノを弾いたして、二人は言葉に出さずとも互いに惹かれ合い『愛』を感じる淡い恋心を抱いていた。

チョンソはソンジュが大好き。

チョンソは悲しい時や辛い時にソンジュに笑って言って見せる。

「お兄ちゃん。この笑顔だよね」

「チョンソ、その笑顔だ!」

ソンジュもチョンソが大好き。

父が交通事故で死んだ時にチョンソはソンジュのそばにいてくれた。

《チョンソが本当の妹じゃなくて良かった。
何故かっていうと…、それは秘密だ!》


ソンジュの秘めた思いであった。

チョンソの母は目の病気で他界した。
父ハン・スハは建築家で大学教授でもある。
ハンはソンジュの母ミン会長と古くからの友人でもあり、ミン会長の新規経営する百貨店ショッピングモ−ルの設計建築を努めた。
そして、亡き妻の側を離れたくないハンは妻の遺骨を海にまいて、海辺に家を建てチョンソと暮らしていた。

ソンジュの母ミンは、グローバル企業の会長でハン教授とチョンソとは家族同然に付き合って来ていた。

ミン会長が設立したショッピングモ−ルの祝賀パーティーの席上で10年間、グローバルグル−プ会社の専属モデルを努めて来た女優のテ・ミラと設計建築したハン教授の2人は互いに惹かれ合い再婚を考えていた。

その頃、一人の男がヨンドゥンボ刑務所から出所して来た。
その男は、新聞記者から声を掛けられると名刺を渡された。

祝賀パーティーの席上で談笑しているミラの携帯が鳴り、電話に出たミラは動揺する。
電話を掛けて来たのは刑務所から出所して来たミラの夫のピルスであった。
そして、ミラにはピルスとの間に息子テファと娘ユリの2人の隠し子がいた。

ピルスが刑務所に5年間、服役している間、ミラは1度もピルスの面会には行かず、ハン教授との再婚に伴いピルスから「テファやユリの子供達はどうする!?」と脅されていた。

それでもミラは自分に都合よく、ハン教授との再婚を決めた。

チョンソは、父ハン教授がミラと再婚する事で父が幸せになる事を願っていた。
そして、新しい生活を始める為にチョンソは思い出のたくさん詰まった『海辺の家』から、義母になるミラと住む新居に引っ越す事になった。

チョンソは引っ越しの時に『海辺の家』の思い出に波の音と風の音を記憶に刻み込んでいた。
そして、ソンジュはカモメの鳴き声を真似してカセットレコーダ−に録音してくれた。

「そうだチョンソ!その笑顔だ!」

ソンジュは笑顔でチョンソに告げた。

ピルスはテファとユリを新居のミラの元に連れて行く前に食堂で御飯を食べさせた。
仕事に就かないピルスの本心は、収入の無い自分の元で子供達に貧しい思いをさせたくない事からミラに引き取らせた。

そして、チョンソは義兄になるテファと義妹ユリと対面した。
チョンソは仲良く生活を送ろうと笑顔でユリと握手をするがテファは握手もせずに黙ったままだった。

こうして、チョンソの新しい家族との生活が始まった。
食卓で勢い良く下品な食べ方をするユリを見て呆然とするミラ。
ジュ−スと間違えてワインを飲んで倒れるテファ。

翌日からチョンソとユリの二人は、同じ女子高の同じクラスに編入した。
初日早々、ユリはクラスメイトから人気を得ようと『自分の母は女優のテ・ミラ』である事を自慢げに話をして、周囲からの気を引く。
そしてユリは下校の際、雨が降ってチョンソを迎えに来たソンジュを見て一目惚れする。

一方、ソンジュはチャン理事の運転する車でチョンソを自宅前まで送り届ける。
そしてソンジュは、別れ際に車中でチョンソにプレゼントの箱を手渡した。
チョンソもソンジュの為に一ヶ月を掛けて編んだ赤いニット帽をプレゼントした。

「これは凄く暖かい!僕は赤が大好きなんだ!
チョンソ、新しい家はどうだ?辛くないか?
シンデレラみたいに継母から虐められたりしてないか?」


ソンジュは冗談半分でチョンソに聞いてみた。

「さては…今日は様子を見に来た訳ね!大丈夫!」

「もうすぐ留学だから、それまで我慢しろ」

チョンソがプレゼントの箱を持って帰宅して来た様子をユリが部屋の窓辺から覗いていた。
そしてユリは、チョンソが部屋に居ない隙を見て勝手に箱を開けてしまう。

箱の中には、ソンジュからチョンソへのメッセージカ−ドとリボンの付いた可愛い洋服が入っていた。

翌日、チョンソが慌てて学校へ行くとユリが黙ってソンジュからプレゼントされた洋服を着てクラスの注目を浴びていた。
ユリはチョンソに問い詰められて逆切れする。

「あんたの物は私の物よ!」

ユリは帰宅すると、チョンソの目の前でわざとソンジュからチョンソにプレゼントされた洋服にインクを掛けて汚してしまう。
2人の言い争いを聞き付けて、謝る事もしないユリにミラは言い放した。

「早く謝りなさい!
人の物に手を付けたんだから貴女が悪いわ。
早く出て行きなさい。
お姉ちゃんに迷惑を掛けるなら、父親の元に帰りなさい!」


ミラから一喝されたユリは同情を引く為に平然と嘘泣きを見せた。

「ちょっと借りて、誤ってインクを零しただけなのに…弁償しろ!の一点張りなんだもの!!」

ユリの言葉を聞いてミラはチョンソに目を向けると、チョンソはユリの態度に呆然とするだけだった。

ユリは何不自由なく幸せに育って来たチョンソが妬ましく気に入らない。
自分が思いを寄せるソンジュに愛されているチョンソの事も妬ましい。
ユリはソンジュの気を惹こうとチョンソと同じ髪型にして、洋服もチョンソと同じ物を着た。

ミラは最初の頃はチョンソをかばい、夫ハンの前でも良妻賢母を演じていた。
しかし、ある日、テストの点数でユリよりも上位の全校1番の成績を取って来てから、チョンソへの接し方を一変させる。

リビングでユリがミラからテストの成績で叱られていた。
その様子を見たチョンソはユリをかばった。
この事でミラは形相を変えてチョンソの前に歩み寄って来た。

「貴女、ずうっと自分の方が頭が良いと言いたいわけ?
同じに転校して来て、自分は1番だったけどユリは2番だったって自慢してるわけ?」


「おばさん…そんなんじゃ…」

有無を言わせず、ミラはチョンソの頬が腫れる程に何度も叩いた。

「おばさん…?もう一度、言ってみなさい!
貴女…どうして、あたしの事をママと呼ばないの?
貴女、本当は心の中でユリやテファに優越感を持って見下しているんでしょ?
何様のつもりよ!?何よ偉そうに!んっ!?」


ミラはチョンソのアゴを持ち上げて問き顔を叩いた。

「正直に言いなさい!
あたしも見下してるんでしょ!?
財産も何もないのに子供を連れて再婚するなんてって馬鹿にしてるんでしょ!?」


「ち、違います…」

「じゃあ、どうしてママと呼ばないの!?
あたしは貴女のパパの妻よ!
貴女はパパの為にもあたしママって呼ぶのは当たり前でしょ!?
ママって、お呼び?ほら早く?呼べないの?」


鬼のような形相のミラから威圧されたチョンソは怖さのあまり何も言えないでいた…。

その時、ソンジュからチョンソ宛に電話が入る。
最初に出たミラは愛想良くソンジュに挨拶するとチョンソに代わった。

「ソンジュお兄ちゃん…今は…」

「セ−フモ−ルに居るから来い!
スケ−トでも滑ろう!」


チョンソは側にミラが居て怯えて声が出せない。
ミラは睨み付けてけしかける。

「行くと言いなさい」

チョンソは震えて何も言えない。
周囲の騒音でチョンソの声が聞き取れにくいソンジュは続けて言う。

「待ってるからな!」

そう言い残して電話を切った。

更にミラはチョンソに言い放つ。

「その顔で行けるなら、コレを着てソンジュに会いに行きなさい!」

ユリにインクで汚され、ソンジュからプレゼントされた洋服をミラから投げ付けられたチョンソはベッドの中で泣き続けていた。

セ−フモ−ル内ではソンジュが後ろ姿のチョンソの元に歩み寄り声を掛けた。

「チョンソ!!」

笑顔で振り向いたのはユリだった。

「あっ!…ごめん…
同じ洋服だったから間違えた」


「チャ・ソンジュさんですよね?
チョンソお姉ちゃんの妹のユリです」


「チョンソは…?」

「急に熱が出ちゃったから、私に代わりに行って欲しいって頼まれたので来ました」

「チョンソの具合はどうなの?」

「大した事はないみたいです」

「そっか…」

「私では…つまらないですよね…?なら、私…帰ります」

すねた口調のユリをソンジュは引き止めて結局、スケ−トをやりたがるユリと過ごした。

ソンジュはユリの送りがてらチョンソの見舞いに訪れる。
ミラがベッドの中のチョンソに言う。

「ソンジュが会いに来たわよ。
どうするの?その顔で会ったら驚くわよ」


チョンソはミラに叩かれた顔を見られて心配させたくない為に屋根裏部屋に逃げ込んだ。
薄暗い屋根裏部屋は義兄テファの居場所で彼は絵を描いていた。
家族と距離を置いて心閉ざしている彼が一言だけ言う。

「邪魔するな…!」

チョンソは入口の片隅で黙り込んでいた。

「チョンソの具合は?何処に居るんです?」

リビングでソンジュが尋ねるとミラは愛想良く答える。

「さっき、熱も下がって図書館に行くって言って出たばかりなんですよ」

「チョンソの部屋を見せて貰って良いですか?」

ソンジュはユリに案内されてT人でチョンソの部屋に入ると室内を見渡して机の上のカセットレコ−ダ−を見付けて手にとった…。

部屋から出て来たソンジュはユリに言う。

「ユリ、チョンソは何でも一人で抱え込んでしまう子だから君が助けになってあげてくれるかい?頼んだよユリ」

ソンジュは両手をユリの両肩に乗せて言う。
頼まれたユリは嬉しそうに答えた。

「はい、勿論です」

チョンソはドアの向こう側から聞こえて来たソンジュの微かな声を聞いて涙ぐんでいた。

ユリはチョンソに対して傲慢な態度とミラを味方に付けて陰湿な虐めを続けて行く。

チョンソは、どんなに虐められても愛する父ハンとソンジュにだけは絶対に心配を掛けたくない一心で、ただひたすらソンジュと共に留学する日まで耐え続ける事を決意していた。

ソンジュも又、常にチョンソの事を心配して気に掛けていた…。



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